戯言 映画

私の代わりに叫んでくれるシェフに。

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

この映画、何回も観た。
美味しそうだし、あったかくてノリがいいし、音楽も最高。出てくる女がみんなめちゃくちゃいい女だし、(この映画のスカヨハはめちゃくちゃいい)少年はかわいいし、何より私の大好きなレグイザモとTwitterが出てくる。笑

私はというと最近、失恋した。まあ、失恋と言っていいと思う。というより数ヶ月間の間、連絡を毎日とりあって頻繁に会っていた男の子が、訳の分からないメッセージを送ってきたのち、去っていったわけである。
私はその子を好きになっていた。好きになりそう!人を好きになれそう!!久しぶりに誰かを好きだ!!の王道ルートを通り、いよいよ彼のアホな言動(風俗行ったエピソードなど笑)も含め、全てを全面肯定できそうなところまで来ていた。のに、だ。
初めはその意図の読めないメッセージをそっくりそのまま受け取ろうと思った。他意がないと信じたかった。でもそれから1週間が過ぎ、2週間、1ヶ月と過ぎていくと、連絡が一切断たれ、なんなら既読もつけてくれない事実に直面した。ラインのトーク画面を見つめ、超能力で画面が割れそうな域まではいかずとも、何度も確認したからだ。
ただの文字のやりとり、たかがLINE。されどLINEである。私は一体なにに振り回されて生きてるのかと悲しくなる。そして、最後のメッセージが、単なる口実だったことに気付く。私と距離を置くための口実。
はいはい、君はそういう子だったのね、そういうことね。

彼の真面目さ=馬鹿正直さを好きになり、信じていただけに、非常に悔しい。
「僕はあなたを好きではないので、もう会えません」
「他にもっといい女を見つけたので、連絡をとるのももうやめたい」
的なことを言うのに、何秒要するだろうか。
しかしそれをしない男の多いこと。

まあ面倒よな。付き合ってもいない女にそんな自惚れた台詞を吐く男なぞ、めったにいないことも頭ではよくわかっている。

しかし、私の頭の中ではシェフのおじさん(ジョン・ファブロー)がこう叫んでいる。
フォンダンショコラを片手でぐちゃぐちゃと握りつぶしながら、大声を荒げて。

「傷つくよ!!」

レストランで大勢の客が見ている中、自分の料理をけちょんけちょんに書き、料理人としてのプライドをずたずたに傷つけた批評家のオヤジ相手に、全ての感情をぶつけるわけである。

「傷つくよ!!」

そう、私は傷ついているのである。
人はいくつになっても、同じことを別の誰かから過去にされていたとしても、変わらず傷付くのである。
そして人知れず、自分の魅力のなさを詰るのである。

Twitterの仕組みを知らず、リプライで暴言を吐いたおじさんのように、思いの丈をぶつけることができればすっきりするだろうか。しかし現実はそう甘くないこともよくよく知っている。

映画では、「傷つくよ!」と真っ向勝負を挑んだおじさんは窮地に立たされる。感情的に大暴れしたために、その動画が拡散されてしまうからだ。ネット社会の怖さは計り知れない。一度出回った動画は消えないし、おじさんは死ぬまでフォンダンショコラを握り潰したシェフとして生きていかなければならない。
しかし、おじさんはかわいい息子のために奮起し、いけすかない元妻の元旦那に頭を下げ、(アイアンマン絡みの仲だしね)フードトラックを売ってもらい、あらためて料理の楽しさを再確認、実感し、以前よりも近い距離で、それを人々に届けようとする。
少し前までは一流シェフだった男の、再スタートが切られるわけです。

しかし恋愛をするたびに、大暴れして人生の再スタートを切るわけにはいかない。失恋するたびに仕事を辞めるわけにもいかないし、恥ずかしい感情的なラインをTwitterに晒されるリスクは避けたい。笑

のでダンマリを決める。本当は大声で怒鳴ってやりたい。

「傷つくよ!!」

ところで彼はまだ若く、女にビンタされたい願望のある変な子だった。これは果たして、壮大なフリでもって作り出したビンタ待ちであるか?

しかしビンタをする勇気も私にはない。
悲しくも弱い人間である。

だけどいつか、本気で愛した人やものに対しては、自分のカッコ悪さやダサさを許し、思い切りぶつかってみたいとも思う。

大暴れして後に引けなくなっても、堂々としていたいと思う。それでも自分の味方でいてくれる人を大切にしたいと思う。