映画

写真家 森山大道『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』

ありがたいことに招待券を頂き、写真を撮るのが好きな友人と一緒に新宿武蔵野館へ。

座り心地のいいブルーのシートに座ると、すぐに始まった。菅田将暉くんの声、可愛い猫のイラスト。なかなか映らない森山さんの顔や表情が見たくなる、焦ったさを感じる演出にまんまと嵌められ、前のめりでスクリーンに見入る。

森山大道という写真家の生活、スナップ写真を撮る姿と並行し進んでいくのが、伝説の処女作『にっぽん劇場写真帖』の復活に挑む、男たちの奮闘劇。

写真家、森山大道という人

とにかく、洒落ている。

煙草、ロックなTシャツ、革靴にデニム。ずっと変わらないロングヘアー。手に収まってしまうくらいの小さなカメラ。

言うこともいちいち洒落ている。
写真とずっと向き合ってきたからこそ出る言葉、写真と生きてきたからこそ言うことの許される言葉たち。

息するように押されるシャッター。撮らせてくれた物や風景にお礼を言うかのような頷き。森山大道という人が立ち止まるとき、街も動きを止めるように見える。森山さんが歩き出すと同時に、街もまた動き始める。街が森山さんに、撮られたがっているかのよう。

例えば綺麗な風景を撮りたいとか、車に乗っていたらガラスが邪魔だとか、影で隠れるのが嫌だとか、反射が余計とか、ピントが合ってないだとか、私なんかが写真を撮るときに感じることや概念が、全部砕かれていく。

森山さんを見ていると、自分が何をするにも誰かの目を気にしてることに気付いて恥ずかしくなる。
静かに、穏やかに撮られる写真は信じられないほどセンセーショナルなのに、そこに「撮る」こと以外の他意が含まれていないことに驚く。「カメラはコピー機に過ぎない」というシンプルな物の捉え方に嫉妬する。

写真一枚撮るのにしても、携帯やカメラを抱える自分を外側から見てしまうことを思い出す。電車で本を読んでいる時、食事をしている時、洋服を選んでいる時。私はいつから、生きることは見られることだと勘違いしているのだろう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/森山大道

八十歳の、少年のような森山さん。』
「何か買ってこようか?お腹空いてない?」とスタッフを気遣ったり、サインを求められればひとつひとつ丁寧に書いたり、口数は少ないが、威厳と安心感が隣り合わさる不思議な空気感。
強いこだわりの中にも、ちゃんと時代と他人を受け入れる寛大さと自由がある。寂しさも喜びも隠さない人。友情を大切にする人。新しさに抵抗しない人。

パリかどこか(曖昧でごめんなさい)で、賞を受賞した時の噛み締めたような笑顔に、グッときた。

ロマンの詰まったドキュメンタリー

伝説の写真集を復活させようと奮闘する男たちは、誰もが純粋に格好良い。
徹底的に追及するプロの精神を、森山さんが大きく包み込んでいるようにも見える関係性は素敵だった。
インクの量、紙質、表紙の色、写真一枚一枚の情報のバランス。
コレだ!と発見した時の昂りがものすごく伝わってきて、興奮した。

やっぱり何かを作る人間って格好いいなあ!!!

『頑張らなきゃ!』

映画を観終わって、友人と新宿を散歩した。
コロナ禍で閑散とするゴールデン街を歩き、「ここだ!」と森山さんが菅田くんとヤン・イクチュンを撮った場所を眺める。「かっこいいー!」口には出さないけれど、思う。
新宿って不思議な場所。新しさも、懐かしさも感じる場所。欲望と純粋さと、両方が漂う場所。
森山さんが撮りたい場所。

「頑張らなきゃ。頑張ろう」って友人が言った。
「うん、そうだね。頑張らないとね」

いくつになっても、ひとつひとつを逃さないように走っていける人でありたい。
走り出す勇気を持つ人でありたい。
恨むことがあっても、書くことを、好きでいたい。