映画

『孤独な天使たち』

孤独な天使たち

久しぶりに刺激的な映画を観た。スカッとするアクションやコメディばかり観て考えることを放棄していた私に、ニキビ面の少年がどっぷり浸かり込んできた。私が彼に浸かったというよりも、彼がのしかかってきた印象。
厨二病をこじらせている彼はスキー教室をサボって、マンションの地下室で1週間を過ごす計画を立てる。コーラも7日分、お菓子もパンもきっちり7日分。
そこに現れたのがヤク中を脱出しようとしている腹違いの姉貴。高い声で怒鳴り散らすので仕方なく少年は自分のねぐらに招き入れる。

映るのは、埃だらけのマットレスやソファ、絶望的な汚さのトイレとシャワールーム。1時間半ほとんどこの部屋からカメラは出ず。かろうじて窓から差し込む明かりが、必死でドラッグの呪縛と闘う姉ちゃんを照らす。

ヤク中で厄介者の姉ちゃんと、父親を奪った女の息子である弟。
彼等を繋ぎ止める半分の血、周りに順応できず、しようとしない不器用なカッコ悪さが徐々に通っていく様子は違和感がなくて
清々しささえあった。
お互いにお互いを、「変な奴」と思いながらも愛しく思う気持ちが美しくて、彼等がひとりじゃなくて良かったなと。
ふたりは全然似てないのに、顔を近づけても厭らしさが全くなくてそれも不思議だった。そこはもう絶妙なキャスティングとしか言いようがない。少年は身体は男だけれど、顔付きや表情が音楽や本の世界に埋もれたタダの男の子で、お姉ちゃんは美しいのに何処かに性を置いてきてしまったかのような印象を受ける。血の繋がりとは本当に不思議だ。その前にこの2人が多分すごくいい俳優なんだろうけど。

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そしてイタリア語でデヴィッド・ボウイが歌ったらしいスペース・オディティの歌詞がまたイカしてる。
”孤独な少年よどこへ行く 大きな苦悩はなぜ”
白鳥のように舞う美しい姉に14歳の少年がグイッと手を引っ張られ、狭い地下室で踊るダンスは堪らなくロマンチックだったな〜。また最高なダンスシーンに出会ってしまった。

最後の食事は、汚い木箱の上に燭台を置き火を灯しナイフとフォークを使う。その日1日を締めくくるディナーを楽しむ気持ちがあることは、何だか生きていることそのもののような気がして嬉しかった。

タバコの箱の中身は、お守り代わりにずっとあのままだったらいいなあと思う。
それを願う。